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19話 

 漣(さざなみ)が聞こえるこの場所も今は落ち着いて此処から見えるのは

小さな星と大きな月。

 「いやぁ、さっきの夕焼けも綺麗でしたけど、この月も綺麗ですよね。」

彼の目の先には月、其れひとつが輝いていた。

私はその中にはいってはいない。 と思うと少しだけ安心が揺らぐ。

そこに居ないと目の前からいなくなってしまう様な気がして…。

 「今日の晩御飯、おいしかった?」

ふとそんなことを聞いたのは何か会話をしていないと怖かった。

「はい。 美味しかったですよ。 たくさんの人と楽しく会話をしながら食事って良いですよね?

何と言うか、平凡なことかもしれませんがとっても嬉しいんです。 僕、友達少なかったから。」

平穏な顔つきの彼の表情はいつもと変わらない。 前髪をいじり、滴る水を弾く。

「ですが、ヒナギクさんの料理にかなうご馳走なんてありはしません。

それだけはちゃんと分かっているつもりです。」

「う、うぅん。 そんな事ないよ。 私なんてまだまだ。 きっとハヤテ君の方が上手よ。」

褒められて照れくさくなったのは、他意なく彼のことが好きだから。 

照れてしまう自分が確かにいる。 それを湯気で隠すことはできなかった。

「ほら、折角ですから。」

そういうと大胆にも肩を抱かれた。 タオルが無ければ完全に密着しているところだ。

ここまで来てしまえばもう私から離れていくことが無い。 そう思うのはやはりどこかに

自意識過剰な自分がいると嫌悪感が刺した。

 「ねぇ、ハヤテ君。 今更なんだけど、ちょっと聞いても良いかな?」

この話題を持ち出すには絶好の機会。 これを逃してしまうと多分二度とは口に出来ないと思った。

「えぇ、何でも聞いてください。 僕に答えられることなら答えますよ。」

「突然すぎるかもしれないけど、どうして私に告白してくれたの?

ハヤテ君は私がハヤテ君のことを嫌っていると思っていたんでしょう?」

すっと見上げたとき瞳孔が微かに動いているの見えた。

それを悟られないように彼は私から目を一瞬はずした。

「実はですね。 本当はヒナギクさんに告白はしようとは思っていなかったんです。

…言い方が悪いですね。 正確にはしてはいけないと思ったんです。」

不意に飛び出した言葉だと言うのに私の理性はまだ残っていた。

「告白…しちゃいけない?」

其れはどういうことだろう。 考えても答えはきっと見つからない。

「はい。 だってヒナギクさんはとても男子から人気がありますし、我々からすれば

理想の女性だと思います。 だからこんな僕がヒナギクさんに告白していいはずないんだって。」

そのあまりにも厚すぎた言葉の壁は私たちの心をいとも簡単に壊してしまう。

「な、何恥ずかしいこと言ってるのよ!! やめてよそんなの…。

それに、だったらどうして? どうして告白してくれたの? 尚更理解できないわ。」

「それは、愛歌さんや千桜さんが後押しをしてくれたんです。」

「あの、ふたりが?」

「はい。 だからとっても感謝しているんですよ。」

部屋のガラスを見て指を指した。

「そっか…。 あの二人が。

じゃあ、もっと変なこと聞くね。 ハヤテ君には正直に答えて欲しい。 

…私と付き合って、後悔したことって無い?」

私の口から言うにはあまりにも悲痛な質問だった。 

無理に歯車を廻そうとしている。 きっとだから痛い。

「そんなことあるわけないでしょう?」

真剣な表情はやっと私だけを見てくれていた。

けれど不思議と心地の良い視線ではない。

「…ナギ、のことも?」

彼は数秒迷っていた。 それは詰まるところ、強ち間違いではないらしい。

「…三千院さん、ですか。 確かにときどき思い出してしまうことはあります。

事実として、僕は彼女の事が好きですから。 それは今でも変わりません。

ただし、好きと言うのは恋愛感情からくるものではありません。」

「そう…。 だったら彼女のところに戻りたい?」

言い出したのは私だ。 だけれど追い詰められていってるのも私。

自分の首を絞めるとはよく言ったものだ。 今の私は血を吹き上げて

無力感に嘆く羊と一緒。 

「ヒナギクさん…どうしてそんなことを? もしかして僕のことが嫌いに?」

そのとき私はしまった、とは思わなかった。

悲しいはずだけど超えていかなければならないことだから。

「そうじゃないの。 ただ私は誰かが一人で沢山幸せになるより、みんなで少しずつでも良いから

幸せになりたいの。」

沈黙が続く。 その長さは一体どのくらいだろう。 1秒か10秒か10分か

いずれにしても私は進まないといけない。 だからとは言わないけれど

重い静寂に終止符を打った。

「ねぇ、私ね知ってるの。 ナギがハヤテ君のことを大好きだったこと。

それはきっと私と変わらないくらい。 だってハヤテ君が来て以来あの娘

ずっと学校に来ていたもの。 それはハヤテ君。 貴方のお陰なの。

それだけ大きい存在じゃないのかな? どうおもう?」

これ以上続けると私は泣いてしまいそうだった。 だから敢えて

質問してみた。

「…分かりません。  僕が彼女にとってどういう存在だったかなんて。

ただ、僕にとってはとても大きかったです…。

大きかったからこそカバーできるならそうしてしまいたい。

そう思っているんです。 

 僕の目の前には今、ヒナギクさんがいます。 そして、こんな風に言ってしまうと

失礼に当たりますが、彼女の代替としては、十二分すぎるほど大きな存在です。

…ですが、やっぱりときどき思い出してしまうんです。」

声はしゃくれて来て、溜まった唾を嚥下している。 喉仏が密かに動いているのを

私は無視を出来なかった。 

「じゃあ、もう一度聞くね? …ナギのところへ戻りたい?」

互いの心拍が伝わるほど近い距離。 其れは伴わない心があるからこそ

身体だけでもと言う愚鈍な人の考え。 きっと思っているほど私たちの

距離は近くは無い。

こうして隣で目頭に涙を浮かべている彼を抱擁すらしてあげられないのだから…。

もう怖がらない。 そう決めたはずなのに、彼を抱きしめてしまうと

私の前からいなくなってしまいそうで…。 

 胸に穴が開いたような空虚感に耐えられるほど強くは無い。

ただ、傍にいて「好き。」 

そういってあげるだけで彼の気はどれだけ軽くなるのだろう。

きっと明るい笑顔で私のことを出迎えてくれる。 

そして、私を底の見えない愛で包んでくれるに違いない。

分かっていても言えない。 言ってあげられはしない。

「…ごめんなさい。 ヒナギクさん。 やっぱり忘れることは出来ないんです。

僕にとって、大切な人だから。 」

想いは募るほど程遠く離れ、手にした瞬間に色褪せてしまう。

そう悟った私は、決心をした。

「…帰って、いいよ。 ハヤテ君。 ナギのところへ。」

そういった瞬間に彼はふっと私を見た。

そして薄氷色の吐息が耳を掠める。

「…そう、ですか。 お嬢様のところへ。 

戻っても…。 良いと。」

喜んでくれる、と錯覚したのは一瞬だけ。

私が発したことに対して彼の表情はやさしくは無かった。

虚ろな光彩(アリス)は居場所をなくし、映すものすべてを

零へと還す。

 「では、一晩だけ考えさせていただきます。」

そういうとハヤテ君は湯船から上がろうとした。

それをただ、見守る。

それが私の選択、では無かった。

片足が出たあたりで私も立ち上がった。

それにまったく気が付いてはいない。 それほどに

ショックを受けている。 

彼は親に捨てられ、ナギに捨てられ、最果てには私まで?

気づけなかった私がそれを今、否定しようとしている。

確信は無いけど、事後ではもう修復不可能なほどに歯車は

ボロボロになってしまう。 そうなる前に行動を移す。

----えい!----

思ってみればこれが最良の策な筈が無かった。

けれど思い当たる行動がこれしかなかったのだ。

結果として汲んであった水はハヤテ君の頭からつま先までキレイに

流れた。

「うひゃあ!!」

骨の髄まで響きそうな声を聞く。

久しぶりに生を感じるような発声をした。

「ちょっと、まだ私は温まってないんだけど?」

そういうと腕を思いっきり振りもどして

ザッパーーン!! という派手な水音が立つ。

 「ちょ! ヒナギクさん。 冷たいじゃないですか!!  なんなんですか。」

「本当に帰っちゃうつもりなの! ナギ、ナギって。 少しは私に気を遣いなさいよ!」

「え、で、でも彼女のところへ戻れといったのはヒナギクさんですよ。」

「なによ! 私のたった一言で帰っちゃうほど、簡単な気持ちだったの?」

「そ、そんなわけ無いじゃないですか!! 僕だってちゃんと考えているんです!!」

「何をよ。 じゃあ何を考えているの? 教えなさい。」

「いえ、あの、別に今は言うべきではないので…。」

茶を濁す。 

これがこの場で一体どのような意味を持ったかは知らない。

けれど確かに彼の言葉は信じてもよさそうだ。

「今、なんて関係ないわ。 いずれ知ることになる。 だったらいいじゃない。」

知りたい、という気持ちを逸(はや)らせるのを抑えては、いない。

「ですが…、今はちょっと。」

更に誤魔化そうとするので私は最終手段にでる。

「何よ…。 ハヤテ君なんか嫌いよ…。 もう知らない。」

そういうと反対側を向いて泣いている…フリをした。

「え、えぇ!!そんな、泣くほどのことではないじゃないですか。

…分かりましたよ。 分かりました! 隠し事は一切しません。

それで良いですね。」

先に折れたのはハヤテ君の方。 

泣きまねとは女の子の特権だ。 これをいま使わずにいつ使うのだろうか。

ずるい、と言われても仕方ないのは考慮している。 

「あんまりこの場で言いたくないんですけどね…実はヒナギクさん。

僕の初恋相手は、…ヒナギクさんだったんです!」

----カポーン----

鹿脅しの無いのにそんな擬音が流れた。

だって、意味が分からないから…。

「えーっとですね。 結構前の話なのですが、とある夢を見たんです。

あれは、僕が小学校に上がる前の話で…。」

ここからしばらくハヤテ君の回想が始まった。

次の話よりハヤテの過去話が始まります。









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久しぶりだったのでまとめ読みしましたw

ハヤテの回想の先が気になります!

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