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16話 

 ヒナギクが入院しておよそ3週間。彼女は療養に励み、その甲斐あってほぼ完治に近い状態にまでになっていた。、ハヤテたちは当日に向けての練習に力を入れていた。ハヤテと千桜は練習が終わるふたりきりでいつもヒナギクの病室を訪れるのだった。
「…いよいよ、明日みたいね。練習の方はどうだったの?」
「もうばっちりです。これも偏(ひとえ)に千桜さんが頑張っていたからです。」
そう。彼女は毎日夜遅くまで生徒会室で練習しているのだった。暗い部屋で灯ったのは月の光くらいだった。台本も必要とせず、内容に没頭して役を演じきり、ハヤテにも負けず劣らずの演出をしていたのだった。
「へ~、そうなんだ。だからこんな時間に…。」
彼らがヒナギクのところに訪れるのは大体7時半を超えることが多かった。
ヒナギクは大抵夕食を食べ終えていて、ハヤテと千桜は持参している弁当をそこでいつも食べていた。中身は…一緒だった。毎日ハヤテが千桜の分の弁当を用意していた。
その姿を見ていると兄妹にも見えてきて面白かった。
 「まぁ、綾崎君に迷惑の掛からない程度に頑張るんで、ヒナギクも早めに体調を整えて学校に来てください。…それと、これ。」
そう言って千桜は手紙をヒナギクに渡すとそそくさと出て行ってしまった。
「もぉ、僕に迷惑をかけるなんてあるわけ無いのに。ですよねヒナギクさん。」
出て行った千桜の姿から目をはずしてヒナギクのほうに目を向けると元気が無い様子だった。
「…。」
黙り込んで窓の方を向いていた。夜景を見ているのだろうかとヒナギクの顔を覗きこんだ。
「ヒナギクさん?」
そう言うとヒナギクはため息をついた。
「まったく、ハル子ったら。私に気を遣ったりして。」
よく分からないことを言っている。そう思ったハヤテだったので、「はい?」と声を漏らした。するとヒナギクはもう一度ため息をついてから目を閉じた。
「…折角もらったチャンスだから。いいよね。」
そう言うと開眼してハヤテに少しの恥じらいを込めてこんな話をした。
「ねぇ、知ってる?大演舞会のジンクス。」
「ジンクスですか?いえ、そんなのがあるんですか?」
きょとんとして何を言っているのかあまり理解出来ていなかった。
「あのね、実はあの舞台で主演を演じた二人はほぼ絶対に付き合ったりするんだって。私はそれを当てにしてハヤテ君と主演をやりたいって思ったの。」
初めて知らされた事実に意外という顔しか出来なった。そしてすぐに意味は分かった。
「そう、ですか。」
反応しづらいコメントに何とか反応を示した。ただ言葉のキャッチボールにはなっていない。
「…それでね、さっきハル子からもらった手紙にこう書いてあったの。ほら。」
そう言って手紙を受け取ったハヤテは静かにその文章を目で追った。その文章は以下の内容が記されていた。
『そういえば、最後のシーンを練習するのを忘れてた。私は用事があって帰るのでヒナギクが代行してくれ。』
文章を読み終えると手紙を折りたたんでヒナギクに返したのだった。
「そうなんだって。」
そうなんだってと言われても困るものがあった。なぜなら最後のシーンとはすなわち…キスで目覚めるという場面だから。それでも文章を読んだ以上はやらないといけなかった。
「そうですね。僕もすっかり忘れてました。………あの、じゃあもし宜しければ、僕の練習に付き合ってもらえますか?」
そう言うと恥ずかしげに小さく頷いたのだった。一度だけハヤテは深い息をして、それではと目を閉じているヒナギクの唇に唇をゆっくりと重ねたのだった。
「………。」
「………。」
数秒ほどそのままだった。そして顔を離すとまどろんだヒナギクの瞳があった。
----…やっぱりヒナギクさん、綺麗だな。----
最初に出会ったときに感じたことだった。あの木の下でのこと。出会いこそ突飛で変哲なものだったが、その後の関係は上々だった。本当はハヤテも一時だけ、ヒナギクのことを意識したことがあった。理由は大したことではなかった。それでもその気持ちは大きかった。その気持ちが一瞬だけ心に再び芽生えてしまった。そして二律背反に背徳感があることも否めない。“僕には千桜さんがいる”と心のなかでは思っている。それでも二人きりでいるとヒナギクのほうに心が揺れしまうのだった。だから駄目だと分かっていてもこういってしまった。
「…今夜だけ、ヒナギクさんに甘えてもいいですか?」
それはヒナギクの頬を染める魔法の言葉だった。彼女は不思議と頭に霞が掛かるような想いだった。彼女自身もハヤテのことを諦めたつもりだ。しかし千桜からの手紙や、ハヤテからのそんな言葉が重なり、感情の抑制が効かなくなっていた。だから首を縦に振ったのだった。
「そうね。今日一日くらいなら…。そのかわり明日になったらハル子のこと、大事にしてあげなくちゃ駄目よ。私の大切な友達なんだから。」
そう言うとハヤテは大きく頷いた。そしてヒナギクはもう一言だけ付け加えた。
「…それと。」
「それと?」
一瞬言うのを躊躇ったが、今夜だけだから。そんな甘えを存分に表にさらけ出した。
「私にも、優しくしてくれなくちゃダメ…。今夜だけでもいいから。」
猫撫で声で感情をくすぐるように、子供っぽくそう添えた。
「勿論です。千桜さんが好きなのは今も当然です。…ですが、今のヒナギクさんは、もっと好きです。………僕ってダメな人間ですよね。」





いつの間にか時計は進み、11時を超えていた。とっくに消灯の時間でブレーカーは落とされていた。気が付くとハヤテとヒナギクは同じ布団に包まり、互いにより近くに行こうと手探りで触れ合った。
「…ハヤテ君の気持ちは、どうなの?ハル子が好きって言うのはもう分かってるの。もし、私が他の男の子と付き合うって言ったらどうする?」
敢えて答えづらい質問を投げかけた。しかしハヤテは悩む素振りも見せなかった。
「…そんなの、嫌に決まっています。強欲とか貪欲とかって思われるかもしれません。でも、ヒナギクさんが僕のことを好きじゃなくなるなんて嫌です。」
少しずつ互いに心もほどけてきて、ベッドの上で一緒に唇を重ねた。もう何度目か分からないほどに。
「そっか…。じゃあ、もういいや。」
そう言うと肩をはだけた。その状態でハヤテに体を密着させた。体を寄せ合うと体温を感じて、胸を昂らせた。
「あの、ヒナギクさん?」
バッドの上で肌を見せられ、体をくっつけられ、その上で他にどんな創造が出来たのだろうか。彼は生唾を嚥下した。
「…。」
静かなのはかえって怖い。この暗い部屋の中で彼女は白雪姫などではなかった。彼の焦燥を駆り立てる黒い影を纏った“黒雪姫”だった。
“初めて”なのだろから緊張感は半端ではなかった。それなのに、言葉を交えないのは、覚悟の証拠。突きつけられた目の前の衝動に身をゆだねてもいいのだろうか。そんなことを気にしているとこんな音が耳に入ってきた。
----スー、スー。----
それはとても可愛らしい寝息だった。いつの間にかハヤテの腕の中で寝ているのだった。思わず力が抜けて、笑ってしまった。猫のように小さくうずくまっている彼女はとても可愛らしくて、愛でてしまった。するとヒナギクは気持ちよさそうに微笑んでいた。
寝ているとは思えないほどに鮮やかに。その笑顔もきっと諦められない。白と黒。相反する色。ハヤテにとって今夜は少し強めの灰色に染まっていた。今までは純白だった想いが混色し始めた。それを感じるとどうにも胸が痛む。千桜を裏切るような気がした。だから、ハヤテは明日になったら桜色に染まる。そう心に決めたのだった…。

次回:最終話となります。ここまでお付き合いしてくれたかたありがとうございます。この小説を書くに当たって期間が長く空いてしまったことを申し訳なく思います。そんな中での最終回ですので、少々纏まってなかったり当初との設定の違いが本編ではございました。そのことについては、後々修正いたしますのでその際にはご連絡を致します。本当にありがとうございました。
 追伸:このジャプニカ弱点帳も創立一周年しました。それは感想や批評していただいた皆様のお陰です。ところで私は皆様ともっともっと交流を深めていきたい、そのように思っております。そこで、新たに”小説掲示板“なるものを立ち上げようと思います。ただし今までのような私個人が運営するのではなく、皆様と一緒に作っていくという形式でやっていきたいのです。いわゆる小説バトンリレーというものです。ハヤテのごとく!SS限定にはなってしまいますが、簡単に言えば一番初めは何行かの文章に新たな文章を加えていくというもので、それをどんどん繰り返していって最終的には皆様で作り上げた小説というものを完成させてみたいのです。詳細は私の方にメールをいただければ返信致します。私がこういうのも何ですが、巧拙は一切関係ありませんし、興味がある方なら誰でも大歓迎です。あくまで交流を深めるのがメインですのでそんなに深く考えていただかなくても結構です。お手軽な気持ちでほんの少しだけでもやってみたいと想った方こそ書いていただきたいのです。ですので上記に関して何か興味をもたれた方は下記のe-mailアドレスまでメールを、若しくはブログのほうにコメントをしていただいても構いません。沢山の方々との交流を願いましてよろしくお願いします。

mikage_watarase_love6☆yahoo.co.jp

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