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1話:初めての 

 2号棟屋上。右を見れば1号棟、左を見れば3号棟の屋上が見える。校舎の7階にある立ち入り禁止の柵を越えて錆びた扉を開けたこの場所が俺が学校で落ち着ける場所だ。誰も来ないのだ、何と清々しい。正面を見れば常盤町を全貌できるほどの高さ。落ちてしまえばお陀仏確定だ。
 
金髪、耳ピアス、改造学ラン。俺のスタイルを見て優等生に見えるやつがいればそれは、きっとどこかのアシッド漬けのやつだろう。不良、とは自覚していないのだが、どうにもこの格好が落ち着いてしまう。――中2の時に始めたタバコから始まって、誰かに逆らうことがかっこいいと勘違いした俺はそんな風に一丁前の不良スタイルを定着させてしまい、それから数年たった今、面倒臭いことはしない。これを座右の銘にしている。我ながら素晴らしいと思う。なので誰かに逆らうことなんかしない。それは俺自身に大しても例外ではなく、定着してしまったこのスタイルを今更変えようとも思わない。だから俺のことを不良と勘違いするやつもいるようで『チョーシ乗ってる』とか何とか言いがかりをつけては喧嘩を売ってくる人も少なくは無い。こっちは喧嘩をするつもりはないのだが、そういう時は少しだけ相手をしてやって過剰防衛にならない程度に足払いをする。まぁ、それを俗に喧嘩というらしいのだが。
「ふぅ。かったりぃー」
 息を付くと最近どうも息がタバコ臭い気がしてならない。高校2年生とは思えない。とは言えから喫煙からかれこれ3年も経っている。俺の体はニコチンを切らすとどうにもイライラしてしまう。いわゆるニコ中(※ニコ厨ではない)。そうなると誰も面白くは無いだろう。だから仕方ない――というのは勿論詭弁であるが、こうやって罪の意識があるだけマシなのかもしれない。コソコソと吸わないといけないんだ。高校生ってのは実に肩身が狭い。大人の決めたレールってのは居心地が悪くてしょうがない。肩を竦ませ、学ランの内ポケットからタバコとライターを出すとタバコの紫煙がまた環境を汚していく。
 ともあれ、流石に一日に2単位もふけるのはヤバかっただろうか。学校側には1年のときから目を付けられているわけだが未だにここはばれていない。しかしばれてしまえばそれだけで停学ないし退学ってことだってありえる。それがマズいのかと聞かれるとそんなことも無い気がするのだが、だからといってまだ働く気は全く無い。楽して生きていくことが当面の目標。我ながらこの横着さには驚きだ。ところで、母さんも昔言ってたけど目標を達成するためには一所懸命にがんばらないといけないみたいだ。そしてさっきの俺の目標からいって、俺が今すべきことは……やっぱり授業をふけることだ。だって楽だし。
 タバコを吸い終わるといつもと同じように白のコンクリートに寝そべって空を見上げると重力を感じる。そしてその重力に負けるように俺の瞼も引っ張られる。いや、この場合は睡魔と言った方が正しい。などと考えているうちに俺は眠りに落ちた。

 屋上には始めてきた。いつも下から見て、眺めがよさそうだなーとか思っていたけれど、本当に絶景だった。扉のノブが錆びてて手が赤茶色になったのはちょっとテンション下がったけど。
そして、なにより気がかりなのは私以外にも人がいること。というか寧ろ私の方が出遅れているのか。
近づいてみると見たことのある顔だった。この人はたしか……。
屈みこんでみるとやっぱりそうだった。クラスメイトの園生朝斗――長身の不良イケ面で知っているといえば密かに女子から人気があることと度々喧嘩などの問題を起こして男子からは倦厭されていることくらいで、私にはあんまり関係の無い人だ。
「うわー。綺麗な顔立ちですね。私的にはこんな顔のお兄さんが欲しいですー」
覗き込んだ顔はどこかのモデル、もしくは俳優のように凛々しく女性からはさぞもてるのだろうな、と漠然と見ていると『ん……』寝返りを打っていた。
「これは『俺には隙なんてない』的なイメージからは想像する由もない珍しい表情かもですー」
いつもは教室の中でひとり本とかイヤホンとかとお友達をしているので孤立というか、孤独だった。何よりも目立つのは身長で、190センチもあれば否が応でも目立ってしまう。そしてこの男性は目立つことを極端に拒む。そんな悪循環の所為なのか、元々なのかすごく不良くさい。そんなイメージの人がこんな無防備に可愛い笑顔で寝息を立てていればそりゃ、ちょっとはキュンとしてしまう。
「いやいやぁ、この悠さんには彼氏というものがいるわけで、果てさて。あれはもう彼なのか?」
自問自答…自答はまだ出てないけど。でもこれはあれだ、浮気とかじゃなくて、芸能人のちょっとした一面にトキメいてしまう女の子の心境だ。って誰に言い訳をしているのだろう。私自身? でも別に自己嫌悪とかしているわけじゃないし、いいのかー。私いま、トキメいちゃってます。乙女係数上がっちゃってます。『杉並悠』ルートとかに入っちゃう! なんて妄想をしていると屈みこんでいたのが仇になった。ゆっくりと開いた瞳が私と会ってしまった。
「あ~……あの」
「ん~、ふぁ」
どうやらまだ寝惚けているようだった。幸いというか、いきなり警戒されたり目を付けられるようなことはなさそうだ。しかし未だに目はばっちりとあっている。何を喋ればいいのやら。居たたまれない気持ちを中々払拭できない。
「あの、その。おっはーですー」
魔がさしたのか私は小学生のときに流行ったあの挨拶をした。
「…おっはー」
園生君はどうやらまだまだ寝惚けているようでちゃんと返してくれた。何というか、とてもレア。普段教室だったら絶対にやってくれない様な歴史的瞬間の証人になってしまった。
「有希姉ちゃん、何してるの? 僕まだ寝てたい。そだ、一緒に寝ようよ」
どうやら小さなときの夢でもみているようだ。男子におそられている巨漢、とはいってもかなりスリムで、そんな男子の貴重すぎる一面。
「母性本能がスタンディングオベーションで、こう、チュっとか、ギュ~なら許されそうです」
私の妄言は世界へ飛び出したみたいで、彼の耳にしっかりと届いたらしい。
「うん、いいよぉ……。いつもみたいにチューして……」
そう言うや否や私は強引に手を掴まれてそのまま抱きすくめられ、半ば強制的にキスを奪われた。
「ん……。お姉ちゃんの唇やぁらかい」
それだけ言うとまた眠りについてしまう。今度は私を抱きかかえながら。
「……いま、キスされ、た?」
微かに残るタバコ臭い息の感触が残っている。ファーストキス、奪われた?
そう考えるとだんだん脳が沸騰しそうなくらいに熱をもつ。そりゃ、私だって女子高生ですから、彼氏がいるいないに関係なく嬉し恥ずかしなわけで……。
「う、う……うにゃ――――!!」 
 前途多難な邂逅を果たした私たちはこの先々の行く末の末端すらもつかめていなかった。

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