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2話:相談と 

 久しぶりに夢を見た。俺が5歳くらいまでは一緒に住んでいた有希姉さんの夢だった。昔は行き姉ちゃんと呼んでいつも甘え過ぎていた。それぐらいに信頼していた。シスコンと言われても仕方ないくらいベタベタしていたと思う。それを否定も無視もしない。俺が生きてきて唯一尊敬している人だ。今でこそメールしかしないが、それでも信頼はしている。
夢見心地は最高だった。人肌を久々に感じた気がする。本当に感じだけだけど。
それからすこしずつ姉さんは霞んでいき、不思議なくらい目覚めを実感できた。
 「ん……」
まだ寝ていたいと言う欲を抑えるように重たい瞼をゆっくり起こした。
視界はぼやけて、何が何だか分からない。ただどうしてか体には何かを抱いているようなぬくもりがあった。それはまるで本当に姉さんと一緒に寝ているみたいで……。
「……姉、さん?」
そう漏らすと聞きなれない声が耳に流水のよう入ってきた。

「いえ~、お姉さんでなくてごめんね~ですぅ」
ばっちり目が合っている。バチコン☆みたいなウィンクをすれば完全に目が覚めるだろうか。
男の人の胸の中ってこんなに暖かかったんだ。なんて思ってたら目グシグシし始めた。この人、本気で起きる気だ。
胸中にワーニング(小鳥遊君とは違う)を感じて言い訳染みた言葉が出た。
「あの~、これはセクハラとかじゃないですよ?」
……自分自身のことなのにとてつもなく情けない。いや、そもそもセクハラの容疑が掛かるのは園生君のほうだ。私は被害者だ。そう考えると急に強気になる。
「こ、こんな不埒な真似してお嫁に行けなくなったらどうすんだ~」
語尾が弱くなってしまうのは目の前の園生君にギョロっと睨まれたからだった。
「あんた、誰?」
「ひょぼっ!」
思わず変な声が出た。寝起きの彼はどうにも声のトーンが低いようでドスを聞かせている。
「ってか、何で俺あんたのこと抱いてるの?」
「あ~、それは、そのぉ……」
斯く斯く然々。
「あ、そぉ。そりゃ、悪い……」
この6文字中に一通りの説明を終え、今この状態だ。何というか、園生君は赤面している。
「謝罪はいいですから、そろそろ離してもらえると嬉しいです~。ほら、園生君の体温でメガネも曇ってきちゃって……」
「あ、あぁ」
気まずそうに重要文化財を運ぶときの様に慎重に私に絡めていた手を離した。少しだけ名残惜しい気も……。いやいや、彼氏持ちの女は他の男子に抱かれたりしてはいけない。婦女子たるものそれくらい分かっているはず。腐女子ならいいのかな? などと思っていると立ち上がった園生君から声が掛かった。
「で、いきなりで悪いんだけど何でここにいんの?」
私とは顔をあわせない様に屋上のフェンスに近づいて常盤町を一望していた。
「えっと、その前に自己紹介とかさせてもらって良いですかぁ?」
「それは構わないが」
そう間を置くと呼吸を少しだけ整えた。まだ心臓のポンプは元気だ。
「私はあなたと同じ2年8組の杉並悠って言いますぅ。こんな喋り方なんでノロマとか言われちゃうんですけどぉ、案外俊敏ですよぉ」
それからシュッシュッとシャドーボクシングを始める。風は切らないし、口で『シュッシュッ』といってるのも空しくなってきたので手をダランと下げた。
「ふ~ん。知らなかった」
「でしょうね~。話とかしたことないですしー。そもそもまだ学年変わってからあんまり経ってないですからぁ」
4月の頭に始業式があってからまだ2週間くらいしか経ってない。知られてなくても仕方が無い。
「そうか。でも何であんたは俺の名前を知ってるんだ?あ、もしかして」
「はい~。園生君、身長高いので目立ちますからぁ」
そう言うと『チッ』と軽い舌打ちをされてしまう。何というか悪いことを言ったかもしれない。本人の気にしていることだ。全く気が回らない。早めに謝っておこう。

「あ、の……ごめんなさいです~」
急に頭を下げられた。ふわりと風に乗ってシャンプーの香りがした。俺が舌打ちしたことを気にしたのかもしれない。これは昔から癖のようなものだ。いつもこれをやった後に気が付く。ほとんど無意識的なので相手に詫びられるとどうにも居たたまれない気持ちなる。
「いや、これは癖みたいなものだから、謝らなくてもいい。それに目立つことは本当だ」
そう言って頭2つ分くらい小さい杉山にそういうと仰がれて『ありがとです~』と今度は感謝をされる。
「それよりどうしてあんたはここに来たんだ?」
「あ、それはちょっと混み混みの理由がありまして~」
「ありまして?」
そう会話を催促するとオホンと痰を切って続ける。
「今、私付き合っている人がいるんですけどぉ。それでちょっと悩んでいまして~」
「それで授業をふけてここに気分転換に来た、と」
「そういうことです~。でもまぁ、予定では今頃号泣して『彼氏君のバカヤロー!』とかって叫んでるところでした」
「予定では?」
含みを持たせた表現をする。何か予定を崩すようなことがあったのだろうか。
「はいー。ですが、屋上ではイケ面不良の園生君が可愛い顔でネムネムしていたのですよぉ」
「かはっ!」
何か出た。思いがけないことを言われた所為だ。
「それから、私は気分転換を後回しにネム生君を観察したんですよぉ」
「……それで、どうして杉並は俺に抱きついていたんだ?」
正確にそれは正しくは無い。寧ろ俺が彼女を抱きしめていたのだが、そう言うには照れや居たたまれなさがあった。
「いえいえ~、抱きしめられたのは私の方なんですぅ」
両手で自分の体をかばうような動作とメガネの奥の後ろの潤んだ表情を見ていると罪悪感を芽吹く。
「一体どういうことだ?」
思わずぶっきらぼうになってしまう。こんなんだから倦厭されがちになるんだろう。まぁ、人と交わる気なんてないから都合がいいのだが。
「何だかネム生君はお寝ボケ君だったもので、お姉さんの名前を呼んで私のことをギュっと強く抱きしめました」
……マジか。
それはまずい。何がまずいかは分からないがこれ以上聞いてしまうのは危険な気がする。
「そ、そうか。それは悪かった。……それじゃ」
手を挙げさよならと言わんばかりにフェンスから回れ右をする。
「あ、ちょっと、ちょっとですぅ!」
「何?」
「……それで、私をお姉さんだと勘違いなさったようで」
これ以上は本当に聞くまい。
耳を両手で押さえて『あ゛ー、あ゛ー』と他の言葉を塞いだ。
しかしその手を女子らしい細い手でがっちりホールドされて聞かされてしまう。
「無理やりチューされましたっ!」

……言ってしまった。
こんなこと言っては私は痴女だと勘違いされたかもしれない。
でも、やっぱり言っておかないと、こう、ね?
一応ファーストキスだったり、しなかったり……ゴニョゴニョ。
「……泥棒、ですぅ」
なるべく自分に非はないように振舞う。しかしイケ面不良の彼だ。こういうことには慣れているに違いない。だから一蹴してさよならかな? と何故か寂寥感がほんの少し浮上する。少し思考するとこういう検索結果が出た。
⇒乙女係数上昇要因を獲得ならず。
どこかの青春男のように○○要因と格付けすることで感情を整理した。
「……その、それは悪い」
「ふへ?」
何が起こったのか、園生君は頭をポリポリと掻いて謝罪した。
「もしかして、初めてとかか?」
聞く人が聞けばおおいに勘違いしそうな台詞だ。
「一応、そうですぅ。わ、私、お嫁に行けなくなっちゃったです」
「俺が結婚してやんよ!」
……なぬ?
この人今何か言っただろうか?
「あ、通じねぇし……」
「え?」
「いや、なんでもない。ちょっと言ってみただけだ」
言った本人が一番恥ずかしそうにしている。そして私の心臓はまた早鐘を打つ。それを誤魔化そう思考する。互いに何かを言わないといけないという気持ちにはなっているのかもしれない。けれどもイマイチ思いつかない。
「それじゃ……」
しばしの沈黙のあと、園生君は再び帰ろうとスタスタ行ってしまいそうになる。なのでとっさのあまり口からこんな言葉が出た。
「責任取れです、コノヤロ~」
すると園生君はピタっとそこに静止する。
「責、任?」
こちらに顔を向けようともせずに確認しようとする。なので少しだけ意地悪をしてやろう。
「そうですぅ。乙女のファーストキスを奪っておいて、ごめんだけで済むとおもうんですかぁ?」
最後のほうは若干涙交じりの声を演じて動揺を促す。自分の演技力に『良』をあげよう。
また考え込むように彼は黙って、それから30秒後こちらに振り返る。
「それで、俺はどうしたらいいんだ?」
「え?」
思わず聞き返してしまう。そんな責任とかそんなの考えてもみなかった。このまま強く振り切られたそれでもいいかと思っていたが、この人案外誠実だ。それを知れただけでも充分だった。しかも内申の評判は良くないものの、ルックスやらスタイルの評判はかなり高めの男子にあんなことされたのだ。少しおこがましいかもしれない。と言う考えには及ばずこんなことを言う。
「さっき、彼氏のことで悩んでるっていいましたが、ちょっとご相談に乗っていただきたいですぅ」
「相談?」
「はい~。解決できるまではできればぁ」
困っていますよーと言わんばかりに上目遣いで懇願する。
「え、そんだけでいいのか?」
「それだけ?」
何か意外だと思わせるような聞き方をしてくる。
「いや、責任とか言うから付き合え~とか言われるのかと思った」
「付き合え~」
「いや、それは断る」
「ひどっ! それひどっ!」
「俺、あんまし女とかに興味ないし」
「そんなこと言ったらみんなにキスされたことばらしちゃいますよ」
「うっ」
顔を引きつらせて本当にやめてほしそうな顔をされる。
「だから、相談に乗っていただければしないですぅ」
これは自分でも卑怯だと思った。そもそも口外しないという絶対的な保障が無い以上は取引は成立していないはずなのに相当あせっているのか否応なしに了承してくれた。近々この人への偏見を見直す必要があるかもしれない。そんなことを考えながら私は彼の目の前に近づく。
「それじゃ、よろしくですぅ」
できるだけ可愛らしい笑顔を向けてこれからはじまる『相談相手』と握手をした。
 それがこれからの私たちの最初の関係だった。
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