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3話:彼氏(仮) 

 午前授業の今日、放課後には部活の生徒がちらほらと準備を始めていた。それを屋上から見下してほんの少し悦に浸るのが好きだったりする。外野から絶対に届かない声で下手くそやらドンマイやらと言っていると何というか仮想的な充実感を得られた。心の中での応援と言えばまともに聞こえるかもしれないが、要するに部活をやる気はないけど、見てる程度の気力はあるってこと。
しかし本来ならば直帰コースの俺が学校に留まっている理由はひとつしかない。
――バタン!
突如屋上に響く鉄扉の赤錆がパラパラとコンクリートに落ちる。
 「遅い」
 「ごめんなさいです~」
予定の時間より15分の遅刻だ。文句のひとつでも言ってやる権利はあるはずだと考えていると先に謝られてしまったので、一応、それは飲み込むことにした。
 「走ってきたのか、ほら、これやる」
そう言って飲みかけのポカリを投げると覚束ない手つきでほわっ、とか言いながらキャッチに成功する。
 「ありがと~。喉がすっからからでぇ」
息が上がっているのを見ると恐らく一階からダッシュしてきたのだろう。キャップをあけてコクコクと飲み干されていくを見ているとチラッと目があう。ペットボトルから口を外すとあ、と杉並が短く声を切り、俺のことをじっと見つめる。
 「……またですね」
 「なにが?」
 「かんチューです」
 缶チュー? よもやこれが缶チューハイだというまい。だとすると何を言いたいのだろうか。
 「間接チューです……」と杉並。
 「あ、あぁ。そういうことかよ。別に今更気にすることでもねぇよ」
高校生にもなって間接が何だとか気にするのは馬鹿らしいと思える。何よりこいつとは……
 「って、何考えてんだよっ!」と思わず自分に突っ込みいれてしまう。
それを見ていた杉並は明らさまに俺のことを訝しむような目つきだった。
 「え~っと、それで話を進めてもいいですか?」
 「おう、そうだった。んで、相談だっけ? 俺、なしたらいいん?」
 「それはですねぇ。単刀直入に言いますと~、これから彼氏のことを振りに行きたいのですが、その方法を考えるのを手伝ってほしいといいますかぁ」と、煮え切らない様子だったので、飲み干したペットボトルをふんだくって、その透過している先をのぞき込むとグニャグニャに変な形にした杉並の顔があった。
 「ぷっ」
つい吹いてしまう。言ってみれば福笑いのような感じで目が垂れ下がっていて、口が右下の方向に伸びたりと口外してしまうには忍びない顔になっていた。
 「ちょっと~、真面目なお話の最中に笑わないでくださいよぉ」
若干涙ぐんだ声で訴えかけてくるのが一層面白い。けれど少し行き過ぎた感もあり早々に止めて話の続きを催促した。
 「んで、何で振りたいわけ?」と、訊いてみると再び歯切れ悪くなるので、軽く小突いてやる。
 「ひょぼっ!」
……なんだその反応。
咄嗟に出る言葉として適切なのか些か怪しいところではあるのだが、不意をつけたのは確かなようなので言及は無用。
 「それで、あの~。今付き合っている彼と言うのが中々手癖の悪い人でですねぇ。何だか、他の子とも付き合ってみたいなんです。二股くらいなら噂として流せないことも無かったのですが、それが五股、六股ってなってくるとぉ、流石に見ざる・言わざる・聞かざる、と耳を塞いでいるわけにはいかないのですよぉ」
 「手癖が悪いって、誤用じゃね?」敢えてそこを指摘してみるとチッチッチと余裕ぶって見せる辺り、若干うざい。
 「彼はですねぇ、盗んでいったのですよ」
 「……いや、銭形のとっつぁんは要らんから」先は読めた。
 「……彼女たちの心を、ね」
たっぷり溜めた後、どや顔でそういい切り満足したのか額の汗を拭う素振りをする。
 「それで、浮気症のそいつを振りたい、と」
 「あれ、ネタは華麗にスルーですかっ!?」
 「それはなー、うん。あれだよ、あれ」
 「あれあれ、詐欺?」
 「お前も新しい彼氏が出来たって言って適当にあしらえばいいんじゃね?」
 「また無視されたですぅ……女の子はデリケートなのでちゃんといじってくれないと寂しいですぅ」と、上目遣いで俺を見つめてくるので俺も一歩踏み込む。
 「青春パーンチ(^-^;)」
うん、若干配慮はした。たとえコイツでも女は女だ。顔に出てるはず……。
 「ぃきゃんっ!」
まるで躾のなってないチワワのような断末魔を響かせる。
 「って、まだ死んでないですよぉ」
 「チッ!」
 「ひどっ! それひどいですって!」何だかコイツの扱いに慣れてきた……。
 「で、俺の話聞いてた?」
わざわざ俺が提案してやったんだ。これに乗らない手は無いはず。あたいってばパーペキね、と某⑨もきっと納得していることだ。
 「いえ、まったく!」
自信満々にそう言い切る杉並は一切悪びれもせずに敬礼をしている。
 「……って、いたーい! い゛、い゛ぎゃー!」
 「ゴッドハンドによるこめかみの按摩はいかがだろうか。何ならそのちっぽけな脳を圧縮して密度を上げてやろうか、あん?」
俺は固いグーを作って両サイドから圧力を掛ける、所謂グリグリ攻撃で制裁を下した。

 「……う、あぁ」
 「もはや放心状態か」
目の端からは痛みからか、熱の篭った涙が何滴か落ちた。とは言え恐らく手加減されていたのは充分に分かる。ズキズキする目の両サイドを押さえながら聞きこぼしたらしき話をもう一度聞き直そうと口を開く。
 「そ、それでぇ。結局何をどうすればいいんでしょうか~」
 「ったく。あと一回しか言わないからな。いいか、そういうのは同じ事をしてやれ。彼氏が出来たって言って振ればいい」
 「あー、なるほどほどぉ」
 「これでいいか?」
早く帰りたい、と言う自己表示なのだろう。早々に鞄を持ち上げて背中を向ける。
 「あの~、それじゃあもうひとつだけお願いできますか~?」
 「やだ」
即答だった。
考える余地も無く、と言った風に俺にはそんな義理は毛頭ないと言わんばかりだ。
 「じゃあ、クラスのみんなにばらすからいいです」
 「……お前中々いい根性してるよな。死んでみる?」
 「目が笑ってないですよ」
指をパキポキと鳴らして拳を硬いグーに変えてこちらに向かってくる。それから振りかぶるのを見ると私は両手で頭を抑えた。
 「……ふん」
目を瞑ってグーパンチを待っていたけれど一向に来る気配が無かった。
 「あ、あれ?」
 「ばーか。俺はそんなすぐには殴らねぇよ」と言ってから私の頭に手を載せて髪の毛をグシグシし始める。
 「ふぅ。仕方が無い。これが最期だかんな。お前がその彼氏とやらを振った後のことは一切かかわらない。それを約束できるなら聞いてやる」
態度は面倒くさそうなのに何故か声ばかりは揚々としている。所謂――ツンデレ?
 「んだよ、その顔。なにニヤついてんだよ。あぁ? ぬっころすぞ」
どうやら顔に出ていたらしい。ヌっと顔を近づけてくる。
 「ち、近いです……。それともまたキスしますか?」
 「んなっ!?」
慌てふためた表情はいつもの不良の顔とは全然違うものでどこにでもいそうな普通に男子だ。もしかすると、いや。もしかしなくてもこの人のことを勘違いしていた。
 「それじゃ、よろしくです。彼氏(仮)さん」
そう呼ぶとどこかむずがゆそうに、それを誤魔化す様に頬を掻いていた。
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